2016年2月25日木曜日

股旅探偵上州呪い村を読んでみた

 股旅探偵上州呪い村(幡大介)
 
 ・ジャンル:時代探偵小説
 ・長さ:単行本一冊
 
 
 まとめ
 
 一行短評:時代劇を舞台にミステリをメタ的にパロった作品。
 オススメ度:×
   
 
 amazon.co.jp:股旅探偵 上州呪い村
 
 
 出だし
 
 
「御蔵開けだぁ! 退いた退いたぁ!」
「荷車が通るぜ! お上の御用米だ! 通りを塞ぐんじゃねぇぞ!」
 紺の法被を着けた宿場の若衆たちが大声を張り上げた。ガラガラと車軸を鳴らしながら、米俵を山積みんびした荷車が走っていく。前の梶棒には車引が三人、後ろには車を押す車力が二人がかりで荷車を操っている。街道の旅人は慌てて道の脇に避けた。通りの真ん中を、土埃を上げて、何台も何台も、荷車が走っていった。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・「骸は埋めたんだな? きっと確かだべな?」
 ・「モウリョウ様だ! モウリョウになった久右衛門様の仕業に違ぇねぇ!」
 ・「エドガー・アラン・ポーが推理小説の祖だとする考え方ですね。でもあたしは、ヴィドックの回顧録こそが、推理小説の元だったのではないかと思っておりますわ」「ノンフィクションの犯罪録ブームから派生して、フィクションとしての探偵小説が生まれたと?」
 ・「まるで地球外の幾何学の法則に則って描かれているみてぇだべ」
 ・文様を目で負っているだけで、否応なしに狂気の深淵を覗きこむことを強いられかねないような、人類の文明の根源を根こそぎ揺るがしかねない原書の恐怖にも似た、おそらくは人間の脳裏に焼き付けられた太古の恐怖、原子記憶とでも形容すべき単細胞のアメーバ生物が感じていたかもしれない恐怖の記憶を呼び覚ましかねないような──だんだん何を言っているのかわからなくなってきたけれども、そういうおぞましい形容詞を延々となんページにもわたって書き連ねることによってのみ表すことの可能なような、不可能なような、人類の言語をもってしては名状しがたい、狂気に満ちた幾何学文様だったのだ。
 ・恐ろしい。おぞましい。こんな地底世界で人知れず祀られている神とは、いったいどんな邪神であろうか。イアイア。
 ・この広間まで達して、いよいよSAN値が、じゃなかった正気を保っていられなくなった気配がした。
 ・ペタリ、ペタリという、謎の音が増えていく。
 ・背後で鈴の音が高鳴っている。名状しがたいものたちが一斉に殺到しようとしているようだ。
 ・他に考えようもあるまい。地球外の幾何学とか出てきたし。ほら、アレだよ。あの路線」
 ・「いや、その、コズミック・ホラーだから」「コズミックと言っとけばなんでも許されると思っとるんだべか?」
  
 
 神話要素(ネタバレあり)
  
 ・ラヴクラフト文体のパロディ
 ・SAN値
 ・深きものどもっぽい描写
 ・コズミック・ホラー
 
    
 

2016年2月12日金曜日

クトゥルーの眷属(ロバート・シルヴァーバーグ)を読んでみた

 クトゥルーの眷属(ロバート・シルヴァーバーグ)
 
 ・ジャンル:怪奇
 ・長さ:掌編〜短編
 
 
 まとめ
 
 一行短評:クトゥルフ神話における「ランプの魔神」ナラトースさんのお使い&復讐物語。
 オススメ度:×
 
 
 掲載誌:クトゥルー10
 
 
 出だし
 
 小道のなかには暗すぎるものがあり、そうした小道を調べてはならない。ジャケット付きの本の中には紐解いてはならないものがある。ある種の眠り込む神がいて、眠りに酔って隠されているそうした神々の暗澹たる力は、光のもとでふたたび光視させてはならないのである。大胆さの大小はおぞましくも長々とつづく死にほかならない。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・マーティは十七歳の若者で、ミスカトニック大学附属図書館の整理係として働いていたのだ。
 ・たった十ドルぽっちで本を渡すのは莫迦げてる。マーティはそう思った。特別な書庫に収められているほど珍しい本なら、五十ドル、いや百ドルくらいの値打ちはあるだろう。
 ・分厚い本の表装は黒い革だったが、皺が寄って腐り始めていた。書名は金文字で『ネクロノミコン』と刻印されていた。マーティは眉をひそめ、重い表紙を持ち上げた。扉にはこう記されていた。アブドゥル・アルハザードの『ネクロノミコン』 十七世紀スペインで刊行されたオラウス・ウォルミウスのラテン語版からの翻訳
 ・ある種の名前がなんどもよくあらわれる。ヨグ=ソトース、クトゥルー、ナイアーラトテップだ。ヴォーリスさんはどうしてこんな本を手に入れたがったのだろう。
 ・そのとき、本のまんなかあたりにあるある次の文章に目がとまった。……最も軽きはナラトースの眠りにして、ナラトースを目覚めさせるは術に未熟なる者にも可能なり。(中略)ナラトースを支配する者は世界の富に近づけるも、ナラトースは旧支配者の力をわかちもち、その怒りすさまじければ、最新の注意をはらうべし。
 ・ナラトースの召喚法が記されてい六三八ページを開いた。
 ・ふたたび稲妻が走り、おぞましいものがつかのま姿を消した。ナラトースがもどってきたときには、部屋の中央にテーブルが用意されていた。黄金の皿の上には、マーティの想像を絶するものがあった。アイスバケットに入れられたシャンペン、肉汁たっぷりのステーキ、シャーベット、サラダなどがあった。(中略)「時間と空間の繊維からつくりだしたのだ、愚か者よ。クトゥルーと旧支配者の素晴らしい資源を飲食物に用いるとは、おもえの浅はかさは救いがたいが、それがおまえの望みなら、われは従うまでだ」
 ・「われは宇宙の戸口に潜むもののひとりだ」ナラトースが低く響く声で言った。「はるか永劫の太古、彼方の星から到来したクトゥルーとその仲間が、この世界をはじめとする星を支配し、われはクトゥルーの仲間だった。いまわれらは外世界の闇の中で眠り、クトゥルーが目覚めて、かつて支配した世界にわれらをふたたび連れ戻してくれるのを待っている」
 ・しかしマーティはナラトースのことを自由にしようとはしなかった。ナラトースに話をさせた。蛇の父なるイグのことや、『ネクロノミコン』がアザトースという名前のもとに隠しこんだ、歪んだ宇宙の彼方に存在するおぞましい核の混沌のことをしゃべらせた。
 
 
 神話要素(ネタバレあり)
  
 ・【舞台】ミスカトニック大学
 ・ネクロノミコン
 ・ナラトース
 ・ヨグ=ソトース
 ・【簡易紹介や言葉だけ】クトゥルー、ナイアーラトテップ、父なるイグ、アザトース、ルルイエ 
 
 

2016年2月10日水曜日

残虐行為記録保管所(チャールズ・ストロス)を読んでみた

 残虐行為記録保管所(チャールズ・ストロス)
 
 ・ジャンル:スリラー
 ・長さ:中編〜長編
 
 
 まとめ
 
 一行短評:クトゥルフネタもあるハードボイルドオカルトSFスリラーの逸品。
 オススメ度:
  
 
 単行本:残虐行為記録保管所
 
 
 出だし
 
 緑の夜空、ハッカーの楽しみだ。
 ぼくの会社の裏の植え込みに、クリップボード、ポケベルを持ち、景色が不気味なエメラルド色に染まって見えるまるっこい暗視ゴーグルをつけて身を潜めている。いまいましいそのゴーグルのせいでガスマスクフェチの鉄道マニアのように見えるし、締め付けられて頭痛がし始めている。空気がじっとりしていて霧雨も降っている。レインコートも手袋もおかまいなしに染み通ってくるたぐいの湿気だ。この茂みの中でももう三時間も、最後の仕事中毒が明かりを消して帰宅し、裏の窓から侵入できるようになるのを待っている。どうしてアンディに“イエス”といってしまったんだろう? 国家公認の泥棒は、実際には格好のいいものではない──とりわけ、時給が一・五倍になるだけとあっては。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・〈シャトー・クトゥルー〉──ぼくが〈ランドリー〉の同僚ピンキーとブレインズと暮らしているおたくハウス──の居間のTVコンソールは、自宅での創造的精神病の発症を減らそうとピンキーが頭を絞って設置した、つまるところブレインキャンディだ。
 ・ぼくは岩に腰掛け、自分がやってきたダニッチ村と訓練センターのほうを浜沿いに見やる。つかのま、世界はしっかりと安定していて信頼できるように感じる。十九世紀の心安らぐ神話が真実で、整然たる単一の宇宙の中で、なにもかもが時計じかけで動いているように。
 ・「まあね。気候もいいし」モーは窓の外のペリカンたちを顎で示す。「ミスカトニックよりはましよ」
 ・「(前略)ミスカトニック大学のウィルマーす民俗資料コレクションには興味深い資料がそろってて……」
 ・「ぼくが幾何曲線反復法を考えついて、思いがけなくナイアルラトホテップを召喚して、あやうくバーミンガムを全滅させそうになるまで、だれもぼくに気づきもしなかったんです。(後略)」
 ・「(前略)友好組織とは、たとえばタリバンと衝突するまでアフガニスタンにいたムハンマド・カダスだ」
 ・「だいじょうぶです。カラダウィーはどんなことを教えてるんですか?」「(前略)すなわち下級ショゴスの召喚だな」
 ・「EI?」「外部知性体の略さ。中世の魔術師連中が魔物とか神とか精霊と読んでいたやつらだよ。基本的には人間原理が支配し、ある種の知恵を持つ生物が進化したあの宇宙論的領域からやってくる、知覚力を備えた異生命体だよ。超人的に強靭なやつもいれば、ぼくたちからしたら切り株みたいに馬鹿なやつもいる。(後略)」
  
 
 神話要素(ネタバレあり)
  
 ・アルハザード、ラヴクラフト
 ・クトゥルー、ミスカトニック、カダス
 
 
 
 
    
 

2016年2月3日水曜日

妖術師の宝石(ロバート・ブロック)を読んでみた

 妖術師の宝石(ロバート・ブロック)
 
 ・ジャンル:怪奇
 ・長さ:掌編〜短編
 
 
 まとめ
 
 一行短評:カメラを通して異世界を表現しようとする写真家が、セクメトの星という宝石を使って、向こうの世界を撮影しようとする話。王道。だからこそ良い。
 オススメ度: 
   
 
 掲載誌:クトゥルー10
 
 
 出だし
 
 本当なら、わたしはこの話を語ってはならないのだ。デイヴィッドが語るべきなのだが、そのデイヴィッドは死んでしまった。いや、本当に死んだのか。
 そんな考え、デイヴィッド・ナイルズが──想像を絶する異常なありさまで──まだ生きているという恐ろしい可能性が、わたしの心にとりついている。だからこそ、話をしようと思うのだ。そうすることで、私の心をゆっくりと砕きつつある、途方もない重荷がとりのぞけるかもしれないのだから。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・「そうかもしれない。しかし歪める効果を持つさまざまなタイプのレンズと組み合わせることができるじゃないか。これまでのところは形や姿を歪めただけだった。しかし色や形を歪めれば、僕の目指している写真が表現できるはずだ──純粋な幻想写真がね。幻想に焦点を合わせてものをいじることなく再現するんだよ。この部屋の色が反転したり、いくつかの色がなくなった姿を想像できるか。家具の姿が変化したり、壁そのものが歪んでいる姿が」
 ・「素晴らしい」ナイルズが嬉しそうにいった。「一般的に認められた科学理論に一致するしな。なんのことだかわかるか。アインシュタインの共存の考えだよ。時空連続体についての考えだ」
 ・「友人の所へ行って、石をいくつか借りてくるよ。幻視家が占いのためにつかったエジプトの水晶があるんだ。宝石の角度によって他の世界が見えるそうなんだ」
 ・「わたしのもっているもののなかに、まさにうってつけのものがあると思うよ。セクメトの☆だ。とっても古いものだが、高価なものじゃない。(後略)」
 ・地獄を目にしたからだ。最初は無色の燐光のなかで、角度という角度がゆらいでいるだけだった。そしてそうした角度から、真っ黒な平原が果てしなく情報に広がっていった。平原は動き、角度も動いていたが、荒れる海にうかぶ舟の甲板のように何もかもが揺れる中、立方体、三角形、当惑するほどの大きさをした複雑な数学的形態が見えた。何千もあるそれらは、光の多面体だった。見守っているうちに変化した。
 ・
 
 
 神話要素(ネタバレあり)
  
 ・プリン『妖蛆の秘密』
    
 
 

2016年2月2日火曜日

ファルコン岬の漁師(ラヴクラフト&ダーレス)を読んでみた

 ファルコン岬の漁師(ラヴクラフト&ダーレス)
 
 ・ジャンル:怪奇
 ・長さ:掌編
 
 
 まとめ
 
 一行短評:ディープワンの女性を網で救って逃したら……というお話。深きものども譚。
 オススメ度:
   
 
 掲載誌:クトゥルー10
 
 
 出だし
 
 イーノック・カンガーが住んでいたマサチューセッツの沿岸では、カンガーについてさまざまなことが噂され──声をひそめて用心深くほのめかされる話もあるほどだが──そすひて奇異なうわさ話がインスマス港の船乗りの口から広まったのは、カンガーがその港町からほんの数マイルはなれたファルコン岬に住んでいたからだ。ファルコン岬と呼ばれるようになったのは、渡りの季節になると、ぽつんと海に突き出たこの岬から、ハヤブサ、コチョウゲンボウ、そしてときにはシロハヤブサさえもが見られることによる。イーノック・カンガーは姿を消すまでこの岬で暮らしていた。死んだのかどうかはわからない。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・カンガーにまつわるうわさ話によれば、カンガーはカモメやアジサシ、風やうねる波、そして人間の目にとまることはないが、本土の泥沼や湿地にいるらしい未知の巨大両生類のくぐもった鳴き声に似た、異様な声を出すものとも、話をかわしていたという。
 ・カンガーは驚くべきものをその夜見たのだといった。ボートでインスマスの沖合一マイルのところにある悪魔の暗礁に行き、網を投げ入れて大量の魚とあるものをひきあげたのだが、あるものとは女でありながらも女にあらざるもので、人間のように話はしたものの、春に沼地で聞こえるような、フルートの音色をともなう喉にひっかかった蛙さながらの声でしゃべり、口は大きく裂けているにせよ、やさしい目つきをしていて、流れ落ちる長い髪の下には鰓のような裂け目があり、カンガーに助けてくれと懇願し、いつの日かカンガーが危険にさらされるようなことがあれば助けると約束したのだという。
 ・「人魚だ」一人の男がそういって笑った。「人魚なんかじゃねえ」イーノック・カンガーがいった。「足と手があったからな。けど、足にも手にも水かきがついていた。顔の皮膚はおれとおんなじみたいだったが、体は海の色をしてた」
 ・泳ぎさっていくときにはダゴンの讃歌をうたっていたらしいが、彼らの中にイーノック・カンガーの姿があって、他の者達と同様に全裸で歌っていたという。
 
 
 神話要素(ネタバレあり)
  
 ・【名前だけ】インスマス、キングスポート、アーカム、ダニッチ
 ・悪魔の暗礁
 ・深きもの
 
    
 

2016年1月28日木曜日

神秘結社アルカーヌム(トマス・ウィーラー)を読んでみた

 神秘結社アルカーヌム(トマス・ウィーラー)
 
 ・ジャンル:怪奇アクション
 ・長さ:長編(単行本一冊)
 
 
 まとめ
 
 一行短評:コナン・ドイルが当時の著名人──フーディーニ、ラヴクラフト、マリー・ラヴォー──たちと、神秘事件に立ち向かう。が、面白さはそこのみ。
 オススメ度:
   
 
 
 出だし
 
 9月の嵐が眠り込むロンドンを激しく襲った。すさまじい突風が引っきりなしに屋根や緩んだ羽目板をがたがた揺らした。銀貨のような雨粒が無人の道路を打ち、鳩の一家をガス灯の上にある巣にうずくまらせた。
 そして嵐がおさまった。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・「これはエルトダウン・シャーズだよ。デュヴァルが改良した。今見えるシンボルは、イースの偉大なる種族のものなんだ」
 ・「アラビアの狂える詩人、アブド・アルハザードだよ。これはアルハザードが無名都市で発見したデーモン探知機なんだ。デュヴァルとぼくとで、現代のテクノロジーを使って改良した」
 ・「ソーントンはアーカムの殺人事件や魔女のカルトの黒幕だった」
 ・「ボストンの悪魔祓い、鬼神の召喚もあったな。それに、忘れないようにしなければならないが、ナイアーラトテップの巻物だ」
 ・「これらはクトゥルー教団のものじゃないか」
  
 
 神話要素(ネタバレあり)
  
 ・【メインキャラの一人】ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
 ・【登場するもの】エルトダウン・シャーズ
 ・【言葉だけのもの】イースの偉大なる種族、無名都市、アブド・アルハザード、ネクロノミコン、アーカム、ナイアーラトテップ、クトゥルー教団
 
 
    

2016年1月27日水曜日

魔王が家賃を払ってくれない(伊藤ヒロ)を読んでみた

 魔王が家賃を払ってくれない(伊藤ヒロ)
 
 ・ジャンル:ライトノベル
 ・長さ:単行本(シリーズ)
 
 
 まとめ
 
 一行短評:まったくもって文章や面白さのセンスが合わなかった。
 オススメ度:×
   
 
amazon.co.jp:魔王が家賃を払ってくれない
 
 
 出だし
 
 ──どん、どんっ! どん、どんっ!
 
「魔王出てこい! 今日こそ年貢の納め時だぞ!」
 俺はドンドンと扉を叩いた。
 扉の向こうは"魔王"の棲み家だ。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・魔王アーザ十四世──正式な名で呼ぶなら、『万物の王にして原初の混沌、偉大なる支配者アーザXIV【トホート】』。
 ・聖なる剣ニトス・カアンブル。別名勇者の剣。奥飛騨に住む伝説の刀鍛冶アルハザードによって鍛えられた業物で、《暗黒地平》のク・リトル・リトル魔族が触れると激痛が走る。
 ・「邪神の杖クグサククルスのことであるか?」  
  
 
 神話要素(ネタバレあり)
  
 ・【主人公】アーザ十四。(アザトホート)
 ・【名前だけのネタ】ニトス・カアンブル、クグサククルス  
 
    
 

2016年1月25日月曜日

恐怖の鐘(ヘンリー・カットナー)を読んでみた

 恐怖の鐘(ヘンリー・カットナー)
 
 ・ジャンル:怪奇
 ・長さ:短編
 
 
 まとめ
 
 一行短評:ズ・チェ・クォンの初出。鐘の音の恐怖といい蝕といい、ズ・チェ・クォンはもっと有名になっていい。
 オススメ度:
   
 
掲載誌:クトゥルー13
 
 
 出だし
 
 サン・ザヴィエル伝導本部の失われた鐘にまつわる不思議な事件によって、多大な好奇心がかきたてられた。百五十年以上も隠されたままになっていた鐘が発見されながら、たちまち打ち砕かれて、破片がひそかに産められたことについて、多くの者が不思議に思っている。鐘の驚くべき音色についてさまざまな伝説があるたえに、音楽家の多くが怒りの手紙を書いて、鐘を鳴らして音色を録音することもなく破壊した理由を尋ねた。
 実をいえば、鐘は鳴らされたのだ。その時起こった大変動が、破壊の直接の理由である。そしてサン・ザヴィエルを包み込んだ前例のない闇のなかに、邪悪な鐘が狂った召喚の音色を鳴り響かせているとき、ひとりの男が速やかな行動をとったからこそ、世界は救われたのだ。──私はためらいなくいうが、世界は混沌と破壊から救われたのである。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・「見つけたぞ」(中略)「もちろんサン・ザヴィエルの鐘だよ」
 ・「なんだって、ああ、ちょっt待ってくれ。ここにある。よく聞けよ。『ここに埋められたムツネ族の邪悪な鐘を何人も吊るすなかれ。夜の恐怖が新カリフォルニアにふたたび生じぬように』ムツネ族は鐘の鋳造に手を出したといわれてる」
 ・やがて異常なものを目にした──恐ろしいものだった。蟾蜍(ひきがえる)──灰色の太った醜い蟾蜍──だった。踏み分け道の脇にある岩のそばにうずくまり、ごつごつした岩に体をこすりつけていた。(中略)私は立ち尽くして、嫌悪を覚えながら岩を見た。岩の灰色の表面に悪臭を放つ白っぽい筋が何本もついていて、蟾蜍の眼球がずたずたになったものがこびりついていた。蟾蜍はつきだした目をわざと岩ですりつぶしたのだ。
 ・メキシコ人だった。黒無精髭の生えた顔に、恐怖とくもんがあらわれていた。(中略)目が二つともえぐりだされ、ぽっかり開いた黒い穴から血が流れだしていたからだった。
 ・「わからないんだ。ロス、君は目がおかしくないか」震えがわたしの体中を走った。「妙なんですよ。焼けるような、ちくちくするような感じがします。ここへ来る間、ずっと目をこすってました」
 ・「『インディオたちが邪悪な妖術を実践したので、わたしたちが鐘を吊るして鳴らすと、ムツネ族がズ・チェ・クォンと呼ぶ邪悪な魔物が山の地底の棲家から呼びだされ、わたしたちのなかに漆黒の闇と冷たい死をもたらした』(後略)」
 ・暗き沈黙のものが西の大洋の岸の地底に住まいする。隠された世界の他の星より到来した強大な旧支配者の一員ではない。このものこそ、最後の破滅、劫初の夜の不滅の空虚にして沈黙だからである。
 ・太陽が死に、生命が消え、星たちが暗くなるとき、彼のものが再び立ち上がり、支配地を広げる。生命や陽光とはいっさいかかわりがなく、深淵の闇と永遠の沈黙を好むがゆえである。しかしその時が来たる前に、彼のものを地表に呼び出すことは可能であり、西の大洋の岸に住む褐色の民が、はるか地底の彼のものが棲まうところに届く深い音色の音と古代の呪文によって、これをおこなう力を有している。
 ・彼のものは食の時に来ることもあり、名前をもたざるも、褐色の民はズシャコンとして知る。
 ・そして突然わたしは目が見えなくなった。
 ・何かが頬にあたり、手で触ってみると、暖かなねっとりした血が感じ取れた。
 ・きわめてゆっくりと、徐々に、サンザヴィエルから闇が消えていった。最初は真珠を思わせる乳白色の夜明けのようだった。やがて陽光の黄色の光が射し入り、最後に夏の明るい午後の輝きに包まれた。
 ・日食は午後二時十七分にはじまり、その数分後にわたしは異様な感じがしはじめたことに気づいた。
  
 
 神話要素(ネタバレあり)

 ・ズ・チェ・クォン
 ・イオドの書
 
 
 

2016年1月24日日曜日

邪教の神(高木彬光)を読んでみた

 邪教の神(高木彬光)
 
 ・ジャンル:怪奇ミステリ
 ・長さ:短編
 
 
 まとめ
 
 一行短評:日本初のクトゥルフ神話(?)オリジナル作品。クトゥルー神話史に興味がある方は。(翻案ならば、西尾正『墓場』が早い)
 オススメ度:
 
 
掲載誌:『邪教の神』『クトゥルー怪異録』
 
 
 出だし
 
 どうしてこの奇怪な邪教の像が、自分の手に入ったのか、村上清彦はよくおぼえていなかった。たしかどこかの小道具屋で見つけてきたのには違いないが、それがどこかはどうしても思い出せなかった。
 その夜はひどく酔っていたのだ。意識がなくなるほど酔うと、彼は所嫌わず、夜の街をどこまでも歩き続ける奇癖がある。
 前後の記憶はまったくなく、ただその小道具屋の光景だけが、まるで悪夢のようにおぞましく、あkレの頭に鮮烈な印象を刻み込んでいた。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・その像は、高さ一尺五寸ぐらい、黒い堅木に刻まれていた。(中略)髪の周りに、まるで宝冠か何かのように、まるい珠がいくつもならんでいた。手の指は、両方ともに七本づつ……。
 ・「チュール−の神だと思います」「チュール−?」
 ・「それが地殻の変動で、たちまち大海の底に沈んだ。その高山の頂上だけが、界面の上にかすかに残ったいまの南洋群島だというのです」
 ・「チュール−神の呪い、汝にあれ!」(中略)村上清彦が、無残な死体となって発見されたのは、その翌日のことだった。
 ・そして、いよいよふしぎなことには、あの木像は、忽然と、村上家の土蔵から姿を消していたのである……。
 ・この死体の法医解剖にあたったのは、東大法医学学科の助教授で、戦後の日本で屈指の名探偵といわれた神津恭介だった。
 
 
 ネタバレ神話要素
 
 ・チュール−(クトゥルー?)
 
 
 

2016年1月21日木曜日

ウェストという男(グリン・バーラス&ロン・シブレット)を読んでみた

 ウェストという男(グリーン・バーラス&ロン・シブレット)
 
 ・掲載誌:ナイトランド創刊号
 ・ジャンル:怪奇
 ・長さ:掌編〜短編
 
 
 まとめ
 
 一行短評:『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』の二次創作。文体は好みだが、若干わかりづらい箇所も。
 オススメ度: 
  
   
 掲載誌:ナイトランド創刊号
 
 
 出だし
 
 ドクター・ウェストに雇われてからほんの数日で、ウェストがだれか、またはなにかに居所をつきとめられるのではとおびえていることが明らかになった。おれたちの出会いは偶然だったが、やつにはおおいに有利に働いた。とある寂しい夜、ファルマウスの浜辺で、おれはやつが若いゴロツキの集団に襲われているところにでくわしたのだ。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・研究が進展しているかどうかはわからなかったが、研究室からしょっちゅう、どしん、ばたんという大きな音が響いてきた。俺の質問に対するウェストの答えは"実験動物"だった。そうかもしれなかったが、どんなたぐいの"実験動物"だったら、おれの雇い主に恐怖の叫び声をあげさせ、三八口径リボルバーを三発ぶっぱなせられるんだろう、と俺はいぶかった。
 ・さて、おれは、マサチューセッツ州の海岸に近いアーカムという小さな町から煙のように消えうせた男を探すように依頼され、三ヶ月ちょっとのあいだ、あっちへ行ったりこっちへ行ったりして追跡し続けていた。
 ・翌日、ドクター・ウェストの"使える"車を見せられた。ひと目で、隠してあった理由がわかった。めだつ、という表現ではひかえめすぎた。ウェストの車は霊柩車だったのだ!
 ・全裸の大男が台に縛りつけられていた。顔と上半身が科学火傷のように見えるひどい傷跡でおおわれていた。それを顔と呼ぶには無理があったが、ほかに言葉が見つからないかった。口の癒着していない部分で唾液が泡立っていたし、片方の眼窩はてらてらした瘢痕組織で完全に覆われていた。その哀れな男の鼻は叩き潰した年度の塊のようで、裂け目が鼻孔として機能しているだけだった。
 ・布に包まれた物を抱きかかえていた。おれはその荷物をじっと見つめ、晩飯に食べたものを床にぶちまけた。ウェストがおぞましい抱擁をしているのは、せいぜい四、五歳にちがいない子供の死体だったのだ!
 ・彼女はおれから全部で六回奪われたんだよ。埋葬がすんでまもなく、何者かが彼女を墓から盗んだんだ。そいつの名前をいう必要はあるか? ハーバート・ウェスト博士さ。
  
 
 神話要素(ネタバレあり)
 
 ・ハーバート・ウェスト
 ・アーカム
 
 
 

2016年1月20日水曜日

魔界王子レオン(友野詳)を読んでみた

 魔界王子レオン(友野詳)
 
 ・ジャンル:少女小説
 ・長さ:単行本
 
 
 まとめ
 
 一行短評:クトゥルフ神話ネタが暴れすぎ。ネタが出てくるだけで面白いかといえば……。
 オススメ度:×
 
 
 amazon.co.jp:魔界王子レオン 猫色の月と歌えないウサギ
 
 
 出だし
 
 この音楽は、妖精館から、聞こえてきてる?
 サオリは、ノートに書き込む手を止めて、耳をすませた。
 これまでに聞いたこともない奇妙で不思議な、心をさわがせる音が、夜をわたってくる。
「……音楽、だよねえ?」
 バイオリンみたいな弦楽器の音、フルートみたいな管楽器の音、それがでたらめにまじりあっている。どう聞いても不協和音なのに、なぜか『音楽』だという気がした。
 
 
 ポイントの引用
 
 ・「バイオリン……じゃないよね。バイオリンより大きい。かたちもふくらみすぎ」「おおきさでいうとヴィオラか? ばあちゃんのコレクションならフィドルって言うべきか。でも、胴のふくらみ具合は、マンドリンとかのほうが近い」
 ・鳥が楽器の上を飛んでいる。いや、鳥じゃない。翼のかたちがちがう。コウモリだ。いや、コウモリでもない。羽根はコウモリのかたちをしているけど、胴体と手足は人間そっくりだった。赤ちゃんくらいの大きさだ。(中略)真っ黒で、頭はあるけど顔はのっぺらぼうだ。短い角まであった。
 ・ダイアンさんが入院してるのは、この街でもいちばん大きい、赤牟総合病院だ。
 ・あのずるずるが鳴き声をあげているのだろうか。見た目にあわない、鳥の声のような『てけり・り』という声だった。
 ・黄金色なのはびんじゃなくて、中に入っていた液体だった。はちみつに似た甘い香りがする。
 ・河川敷のグラウンド、ちょうどピッチャーマウンドの上に、人間より大きなイソギンチャクが触手をゆらゆら揺らめかせていた。イソギンチャクというのは、かなりむりなたとえだ。触手は3本とすくないし、円筒じゃなく円錐、つまり上がすぼまったかたちになっている。
 ・「そうだ。偉大なる夢見人ランドルフ・カーターの姪のことだ」
 ・「やむおえないだろう。このまま、夢と現実の境界線を曖昧にして、怪物たちに時や空間を超えさせているわけにはいかない。猟犬が来る」
 ・象みたいに大きな鳥が飛んでくる。鳥と言っていいのかどうか。胴体は象より細い草食動物っぽい。馬、だろうか。ひづめのついた脚が2本ある。それが、ずっと空中をかくようにうごいていた。翼は、鳥みたいに羽毛におおわれているけれど、ほとんどうごかない。頭が『長い』というところだけは、馬に似ていた。「シャンタク鳥、だな」
 ・空飛ぶカニだけじゃない。人間よりでかいハチ。空飛ぶウミウシ。そして地面が揺れて出てきたトラックみたいな大きさのミミズ。「ミ=ゴ、ビヤーキー、星の落とし子、ドール」

 
 ネタバレ神話要素
 
 ・エーリッヒ・ツァンのヴィオラ。
 ・夜鬼
 ・赤牟
 ・テケリ・リ
 ・古のもの
 ・ランドルフ・カーター
 ・ドリームランド
 ・ティンダロスの猟犬
 ・シャンタク鳥
 ・ミ=ゴ、ビヤーキー、星の落とし子、ドール
  
 

2016年1月19日火曜日

ルイジアナの魔犬(スコッチ・カースン)を読んでみた

 ルイジアナの魔犬(スコッチ・カースン)
 
 ・ジャンル:怪奇
 ・長さ:掌編〜短編
 
 
 まとめ
 
 一行短評:ティンダロスの猟犬をストレートに扱った作品。ラストも良い。
 オススメ度:
 
 
 掲載誌:ナイトランド創刊号
 
 
 
 出だし
 
 動物管理官だったころ、奇妙な状況をいやというほど経験した。仕事柄、アメリカ動物愛護局の現場調査専門員として北アメリカ全域の各地を訪れたこともある。それ以前にも、フェニックス、ヒューストン、マイアミなどのさまざまな動物愛護団体で仕事をしたし、さらにその前には五年にわたってアメリカ動物愛護協会で働いていて、カルトがらみの宗教儀式で動物が生け贄にされるなどの事件に関わってきた。そんなわけで、アメリカ最大の動物愛護団体で現地調査員をするチャンスがあったときは、すぐさま飛びついたのだ。
 
 
 ポイント抜き出し
 
 ・上司からの電話を受けた時、とっさに思ったのは、一体全体どうして自分が呼ばれるのかということだった。だが、話を聞いてみると、これは面白い、という気がした。何しろ、魔犬が出たというのだから!
 ・スポルディングは数枚の写真を取り出した。最初の写真には、周囲を沼に囲まれた古い協会が写っていた。小島の古い桟橋に突き出すように建っている。その内部を写した写真誰もが目を奪われた。小さな教会のメインルームは球形の部屋だった。そう、壁が球面になっている部屋なのだ! さらにそこには動物の姿が!
 ・「どうして射殺してしまわないんです? 銃器類があるのに」「殺処分は避けたいからだ。すくなくとも一頭は生け捕りしたい」
 ・インディアンたちが星空の知恵教会に改修されてしまったとき、すべてが変わりはじめたのだ。
 ・「魔犬どもはティンダロスという町からやってくる。いつ、どこに来るかはわからないがね」
 ・スポルディングが口をひらいた。「ニョグタ。あるいは『ありえざるもの』と呼ばれる非常に強力な相手が出現するとにらんでいる」
 
 
 ネタバレ神話要素
 
 ・ティンダロスの猟犬
 ・ナイアルラトホテップ(闇にさまようもの)
 ・輝くトラペゾヘドロン
 
 

2016年1月9日土曜日

曇天の穴(佐野史郎)を読んでみた

 曇天の穴(佐野史郎)
 
 ・ジャンル:怪奇
 ・長さ:掌編
 
 
 まとめ
 
 一行短評:酩酊感ある文章がすごい。夢か現実か分からない視点。文の芸たる文芸として、怪奇幻想を読みたい方は。
 オススメ度:
 
 
 掲載誌:クトゥルー怪異録
 
 
 出だし
 
 ぶよぶよと定まらぬまま、丁度ナメクジの触手の突き出た眼球はピンポン玉大の寒天状で、長い耳も見当たらず、虹彩は赤くはないがその白い体毛といい、おそらく野生のものであればその俊敏さはかくあろうと思われる故、間違いなくあれは兎だ。
 
 
 ポイントの引用(ネタバレあり)
 
 ・夕凪に波も立たぬ湖の面。左方、曇天の空一面の一ト所にポッカリと半円の口が開き、その無効に星々が瞬く。そうだ、今日は朝から曇天であった。
 ・それが証拠に水面は全く持って煌めかず、それどこか、湖の右方では波とはまったく違った形で水そのものが数十メートルの高さにまで隆起し、かろうじてその先端が波の形を形作っているゆえ湖の一部と認識されるが、その紫色のゼリー状のぬめりといい、緩やかなゆらぎといい明らかに石をもった何者かだと直感させたこの光景は陽の光によって現れる陰影とはまるで逆さまなのだ。
 ・帰宅すると家族は皆揃っていて、何処へでかけていたのかと問うと妻は嫌だ今日は土曜日で子供は遊びにでかけていたが皆一日中家に居たという。
 ・書斎に戻り、封をあける。黄色い封筒は確かにアメリカから届いたものだ。住所が書いてないが、消印はボストン。差出人は……ランドルフ・カーター。
 ・『ネクロノミコン』と表示された画面はブーンと唸ったままだ。
 ・
  
 
 神話要素(ネタバレあり)
  
 ・ランドルフ・カーター。
 ・ミスカトニック大学。
 ・【説明時のネタ】ネクロノミコン、アルアジフ、アブドゥル・アルハザード、ジョン・ディー、アーカム。ナコト写本、無名祭祀書、エイボンの書、ネクロノミコンにおけるクトゥルフ、ルルイエ異本を基にした後期原始人の神話の型の研究。
 ・ウボ=サスラ。
 ・愛巧太(あいこうふとし→ラヴクラフトのもじり)